実るほど頭を垂れる稲穂かな
今から25年ぐらい前になるでしょうか。社会人になってビジネス書を読むようになりましたが、その内容に自分が納得する、しっくりゆく書物に巡り合えませんでした。ある時、出張で海外に出かける際に飛行機の中で暇つぶしにと書店で買ったのがパナソニックの創業者松下幸之助氏の「人生談義」という文庫本でした。暗い飛行機の中で手元灯をつけながら読みましたが、「あの松下幸之助さんがこのような生き方・考え方で生きてこられたのか!」と心から感動し、涙が止まりませんでした。
松下氏を始め、世の素晴らしい経営者、人たちに共通することは何か。突き詰めて考えてみると、それは「謙虚さ」ではないかと気が付きました。人生観、経営哲学から、熱意、人徳、優しさなど、すべてが謙虚な姿勢から滲み出ているものではないかと。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という有名な言葉があります。稲の穂は実るほどに穂先が低く下がるものです。人間も本当に偉くなればなるほど、謙虚な姿勢で人と接することが大切であり、会社も成長・発展すればするほど、会社の態度・社員の態度が丁重にならなければならないと考えます。
「謙虚さ」なら自分にも身に付くのではないか。そう思っていましたが、実際は意識して簡単に取り組めるものではありませんでした。なぜなら松下氏はお金がない、学問がない、病気がちであったという、幼少期からのないないづくしの人生経験の中から謙虚さが身に付いているのです。
片や恵まれた私たちが「謙虚さ」を身に付けるためにはどうすればよいか。私には正直分かりません。今はただ、自らを足りないもの、至らないものと深く思い込み、謙虚な姿勢になるよう自らを仕向けるしかないと思っています。実るほど頭を垂れる稲穂のように。
会長 竹中 慎一